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Feb 06, 2011

白石一郎「海狼伝」

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第97回直木賞受賞作。
戦国時代が終わりを告げる頃の海賊の物語。

対馬で海女の手伝いをしていた笛太郎は、
仕事を忘れて小舟で追いかけるほど、見慣れない異国の船に惹かれる。
海と船に対する思いは止まず、
朝鮮で活躍する海賊の将軍が帰って来ると聞き、会いに行く。
そこで見たのは、海の色と変わらぬ色に染められたジャンク船。
ジャンクとは、
19世紀に蒸気船が普及するまで中国で活躍した木造帆船で、
本書では、青竜鬼と名付けられた船や
ポルトガル船を見習って作ったというジャンクが描かれている。

『ジャンクの本領はやっぱり帆走だ。和船の一本柱にくらべ二つの帆、さらに風に応じて船首や船尾で自在に張られる小帆を加えると、船足の早さは和船の比でない。(中略)このジャンクが果たして軍船なのか、それとも明国の商人船なのか、笛太郎にはわからなかった。(中略)とにかくいちど乗ってみたい。』
『船内は三つに区分されていた。船首ふきんは厨房や武器庫、中央に数室が並んでいて、これが寝所、船尾は屋形づくりの高楼で下が積荷の蔵になっているらしい。もっとも二重底なので積荷は全体に平均して置かれてあるのであろう。和船との違いはすぐにわかった。いたるところに隔壁が設けられ、ちょうど一升枡(ます)がいくつもびっしり並んで詰められているような作りなのである。そのため船内を縦貫する通路がない。』

当時の日本の船は帆柱一本に付き一枚の大きな帆を使っている。
それに比べて複数の帆を持つ船は船速を得やすく、
小回りがきく分、操船が難しい。
また中国のジャンク船は当て木(バッテン)のついた帆を備え、
平らな形を保つことができ、
強風のときは帆の一部を簡単に折りたたむこともできる。
注目すべきはその構造で、
横隔壁は波浪から船を守る梁(はり)の役目をし、
一カ所に浸水しても船じゅう水びたしになる心配がない。
また隔壁があることで多檣船(たしょうせん)としやすい。

笛太郎は将軍に出会い、
薩摩からの船に乗っていた雷三郎とともに海賊の手下に加わる。
しかし、瀬戸内海を拠点とする村上水軍に捕まり、
二人は能島小金吾に預けられる。
商才のある小金吾は、毛利家と織田信長の対決の中で交易の手を広げ、
念願である自分の船を作ろうとする。
伯方島木浦でこの新造船を手がけるのが船つくりの名人、小矢太である。
しかもその船は、日本初の南蛮船建造。

船大工は木割図(きわりず、設計図)を見ただけで尻込みしてしまう。
小矢太は船大工たちに『船とは思わずに人間をつくると思え』と教える。
造船にかかって一ヶ月が過ぎても船の姿が見えないのは、
深い溝の中で作っているから。現在のドック建造である。

『まず背骨が出来た。竜骨(キール)である。背骨のそこかしこに枝が生れた。肋骨(ろっこつ、肋材)だった。船に背骨と肋骨ができると工事はさらに複雑となった。船底や側面、甲板の下と思われるところに長大な縦通材(ガーダー)を植えこんでゆく。』
外洋の波の力でも折れない船の建造である。

小金吾が作り上げた一世一代の船は黄金丸と名付けられた。
笛太郎たちはこの船でいったいどこへ漕ぎ出てゆくのか。
物語は瀬戸内海から北九州海域に戻り、最後の戦いを迎える。

この海洋冒険小説は、少年が海の狼に成長していく青春を描いているが、
加えて、松浦衆と村上衆の海賊の生活や掟、当時の船や操船、
それを用いた海戦の様子などが克明に描写されている。
さらに笛太郎のほか、魅力的な人物が多数登場し、
物語に惹き付けられる。
終わりには日本を飛び出し、遠い海へ旅立つ様相を見せているが、
こちらは続編の『海王伝』にて。

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